小説5 初陣、異変。
「任務ですか」
告げられた内容に、ニーナはコクリと頷いた。
「そうだねー、今ヨシノさんが出張ってるから。
そのお迎え。合流地点、かなり敵さん警戒してるみたいだから」
なんとも軽い口調で言う副盟主、グラント。
「そんな敵の数はいないから、数人で拠点を守って、迎えたらダッシュで撤退。そんな感じかな。
ニーナさんなら多分余裕だよ」
さして心配してないから。
そう言わんばかりのグラントの態度に、ニーナは複雑な気持ちになる。
評価してもらえるのはありがたいが…。
自分はまだまだ、今までの任務も割とギリギリでこなしている。
「メンバーはニーナさん、レイヴさん、ヒイラギさん、クルルさん。
ここにヨシノさんが加わってフルPTになる感じかな。
バランス的にも問題ないと思う」
告げられたメンバーはかって知ったるメンバーだ。
1番付き合いの短いヒイラギも、時間帯の関係でそこそこ話す。
「分かりました。出発は?」
「合流は16時。到着次第、拠点の防衛に当たって欲しい」
チラリと時計を見る。
まだ14時。
多少余裕はある。
「分かりました。
余裕を見て早めに出ます」
「よろしく頼むよ。健闘を祈る」
グラントが軽く手を挙げるのをみて、ニーナは頷き、踵を返した。
☆
「ニーナさん」
準備をしようと部屋に帰る途中、声をかけられてニーナは振り返った。
「レイヴさん」
「今日の任務一緒だっていうから。
……よろしく頼む」
物静かに返す今日のPTメンバーに、ニーナは微笑みながら頷いた。
「こちらこそ。ご迷惑をかけないよう、頑張りますね」
「迷惑とか…俺がむしろ気をつける」
むっつりとした表情のまま、レイヴが頰をぽりぽりとかく。
「今回の任務…、ヨシノさんが来るまで、頑張ろう」
「はいっ、では、また後ほど」
口下手なレイヴは、少しでも仲間に寄り添おうと努力している。
今回も、PTメンバーになった自分と少しでもコミュニケーションを取ろうと声をかけてくれたのだろう。
その実直な気遣いをニーナはよく知っているし、実力をつけることにも非常に貪欲な彼を好ましく思っていた。
…1時間後
ニーナの号令により、集合したPTメンバーが顔を揃える。
「よろしくお願いします」
やはりむっつり顔を崩さないレイヴ。
ブレードダンサーの象徴である双剣が輝く。
「よろしくお願いします〜♪」
のんびりとした表情で大きな双剣を担ぐヒイラギ。
小柄の女性の、スレイヤーである。
「になにー、皆んな、よろしくねぇ」
あらあら〜うふふ、と微笑みながら頰に手を当てるクルル。
しなやかな体つきをしているエルダー。
「よろしくお願いしますっ」
ニーナは全員の顔を見回すと、キュッと顔を引き締め。
「出撃しますっ!」
ポータルストーンに手をかざした。
「はい」「了解」「行きます」「頑張ろうね〜」
思い思いの返事をしながら、PTメンバーも合わせてポータルストーンに手をかざす。
ぐにゃりと揺れる視界。
再び視界がはっきりした時には、アジトから遠く離れたリスポーン地点。
ここから、さらに移動して、ヨシノが到着する予定の拠点に向かう。
「な…!」
ニーナが思わず声を漏らす。
30分ほど移動した先に見えた拠点。
そこは既に火の手が上がり、敵に囲まれた状況だった。
「これは…」
いつも余裕のある笑みを浮かべるクルルも、流石に戸惑いの表情を隠せない。
「拠点の場所がバレていたのでしょうか。
リスポーンポイントはなんとか無事のようですが」
ニーナは引きつった表情で目を凝らし、状況をざっと把握する。
作戦内容は、拠点の確保、そして防衛。
「ヨシノさんが、到着するまで。残り時間30分」
ニーナがメンバーを振り返り告げる。
「拠点確保に尽力します」
……長い30分になりそうだった。