メアリのアイドル活動記

セリンディアのアイドル、メアリのつれづれな日々。

小説5 初陣、異変。

「任務ですか」

告げられた内容に、ニーナはコクリと頷いた。

「そうだねー、今ヨシノさんが出張ってるから。

そのお迎え。合流地点、かなり敵さん警戒してるみたいだから」

なんとも軽い口調で言う副盟主、グラント。

「そんな敵の数はいないから、数人で拠点を守って、迎えたらダッシュで撤退。そんな感じかな。

ニーナさんなら多分余裕だよ」

さして心配してないから。

そう言わんばかりのグラントの態度に、ニーナは複雑な気持ちになる。

評価してもらえるのはありがたいが…。

自分はまだまだ、今までの任務も割とギリギリでこなしている。

「メンバーはニーナさん、レイヴさん、ヒイラギさん、クルルさん。

ここにヨシノさんが加わってフルPTになる感じかな。

バランス的にも問題ないと思う」

告げられたメンバーはかって知ったるメンバーだ。

1番付き合いの短いヒイラギも、時間帯の関係でそこそこ話す。

「分かりました。出発は?」

「合流は16時。到着次第、拠点の防衛に当たって欲しい」

チラリと時計を見る。

まだ14時。

多少余裕はある。

「分かりました。

余裕を見て早めに出ます」

「よろしく頼むよ。健闘を祈る」

グラントが軽く手を挙げるのをみて、ニーナは頷き、踵を返した。

「ニーナさん」

準備をしようと部屋に帰る途中、声をかけられてニーナは振り返った。

「レイヴさん」

「今日の任務一緒だっていうから。

……よろしく頼む」

物静かに返す今日のPTメンバーに、ニーナは微笑みながら頷いた。

「こちらこそ。ご迷惑をかけないよう、頑張りますね」

「迷惑とか…俺がむしろ気をつける」

むっつりとした表情のまま、レイヴが頰をぽりぽりとかく。

「今回の任務…、ヨシノさんが来るまで、頑張ろう」

「はいっ、では、また後ほど」

口下手なレイヴは、少しでも仲間に寄り添おうと努力している。

今回も、PTメンバーになった自分と少しでもコミュニケーションを取ろうと声をかけてくれたのだろう。

その実直な気遣いをニーナはよく知っているし、実力をつけることにも非常に貪欲な彼を好ましく思っていた。

…1時間後

ニーナの号令により、集合したPTメンバーが顔を揃える。

「よろしくお願いします」

やはりむっつり顔を崩さないレイヴ。
ブレードダンサーの象徴である双剣が輝く。

「よろしくお願いします〜♪」

のんびりとした表情で大きな双剣を担ぐヒイラギ。
小柄の女性の、スレイヤーである。

「になにー、皆んな、よろしくねぇ」

あらあら〜うふふ、と微笑みながら頰に手を当てるクルル。
しなやかな体つきをしているエルダー。

「よろしくお願いしますっ」

ニーナは全員の顔を見回すと、キュッと顔を引き締め。

「出撃しますっ!」

ポータルストーンに手をかざした。

「はい」「了解」「行きます」「頑張ろうね〜」

思い思いの返事をしながら、PTメンバーも合わせてポータルストーンに手をかざす。

ぐにゃりと揺れる視界。

再び視界がはっきりした時には、アジトから遠く離れたリスポーン地点。

ここから、さらに移動して、ヨシノが到着する予定の拠点に向かう。

「な…!」

ニーナが思わず声を漏らす。

30分ほど移動した先に見えた拠点。

そこは既に火の手が上がり、敵に囲まれた状況だった。

「これは…」

いつも余裕のある笑みを浮かべるクルルも、流石に戸惑いの表情を隠せない。

「拠点の場所がバレていたのでしょうか。

リスポーンポイントはなんとか無事のようですが」

ニーナは引きつった表情で目を凝らし、状況をざっと把握する。

作戦内容は、拠点の確保、そして防衛。

「ヨシノさんが、到着するまで。残り時間30分」

ニーナがメンバーを振り返り告げる。

「拠点確保に尽力します」

……長い30分になりそうだった。