メアリのアイドル活動記

セリンディアのアイドル、メアリのつれづれな日々。

小説7 帰還、揃える肩。

「さて…」

落ち着き払った様子でヨシノが敵を一暼する。

と、次の瞬間には、彼は敵陣に切り込み、回転しつつ敵を斬りはらう。

瞬き一つの間に、近くにいた数人の敵がもんどりを打って倒れた。

唖然とするニーナ達を尻目に、倒れ伏したヒイラギを抱え上げ、敵陣から悠々と歩いて戻ってくると、小柄な化繊をゆっくりと寝かし、やっくるるへ回復を促した。

「よし、じゃあ再開だ」

ニコニコとした微笑みを崩さぬまま、ヨシノは二度、敵へ向き直る。

そこから先は一方的だった。

剣が振られたと思うと、2人が吹き飛び、相手がスキルを放とうとすれば、その前に打ち倒される。

後方から放たれる矢もかわされるか打ち払われる。

蹂躙、蹂躙、蹂躙。

「いやぁ…騎士団長って強いのねぇ…」

ヒイラギの治癒を終えて、所々で援護を入れているクルルが苦笑しながらぼやく。

同じように後方から追撃を行うニーナは硬い表情で頷く。

やがて半分以下まで数を減らされた敵は、蜘蛛の子を散らすようにまとまりのない状態のまま撤退していった。

「いやぁ、助かったよ。

援護があると楽だね」

ヘラヘラと笑いながらヨシノが近づいてくる。

「ヨシノさん…お疲れ様です」

ニーナが頭を下げる。

追随するようにクルル、レイヴ、ヒイラギが頭を下げる。

「あぁ、いやいや。

そんなかしこまらないで。肩書きとかどうでもいいから!」

ヨシノが慌てて手を振り、苦笑いをする。

確かに、コチン隊の幹部に偉ぶる人間はいない。

強いて言うならセリアだが…、まぁあの自称天使に頭を下げる気持ちには中々ならないのはなぜだろうか。

〜☆アジト☆〜

「…!?」

「どうしたんですか?」

「今、になにーに悪口言われた気がした〜!!!」

〜〜〜

「じゃあ、帰ろうか。

流石に連戦で疲れたよ」

笑みを崩さないヨシノが、身体を伸ばしながら言う。

ニーナは頷くと、PTメンバーを振り返る。

…誰一人欠けることなく、帰ることができそうだ。

踵を返し歩き始めながら、もしヨシノがもう少し遅れた時のことを考える。

ヒイラギが倒れ、自分を庇ったレイヴが負傷し。

隊列は崩れたあの状態から、自分達はどうなっただろうか。

我を忘れ、飛び出してしまった失態。蓋を開けてみれば、ヒイラギは無事で、隊列を乱さなければ復帰が可能なレベルだっただろう。

「ニーナさんは、優しいんですね」

隣を歩くヒイラギがポツリと言った。

「花のように可憐で、優しい人だと思います。

あまり、自分を責めないでくださいね」

その言葉の優しさが、じんわりと心に染みる。

「そうよ〜になにーの優しさは底が知れないわ〜」

いつもの調子を取り戻したクルルがからかうような含みを持たせて言う。

「我を忘れてしまうことは…、よくある。

自分もそうだから」

照れたように頭をかくレイヴを見て、ニーナは申し訳なさを含んだ笑みを浮かべた。

「レイヴさん、あの時はありがとうございました。

庇ってもらえなかったら…私は」

「いや、…気にしなくていい。

後衛を守るのが、…前衛の仕事だから」

なにやら受け売り臭さを感じる発言。

最近、セリアが養成所などと言って妙な活動をしているが、その影響だろうか。

「ありがとうございます」

周りの優しさに、ニーナはふわりと微笑んだのだった。

気づけばアジトはもうすぐ。

日が暮れる前には帰れそうだ。