メアリのアイドル活動記

セリンディアのアイドル、メアリのつれづれな日々。

小説6 メーデー、息切れの戦場

メーデーメーデーメーデー

状況は最悪。

今までの任務を遥かに超える悪状況に、ニーナは歯噛みする思いで弓を引き続ける。

敵の人数は8人ほど。

最初は10人程いたが、切り込む時に2人倒した。

戦闘力はそれほど高くないはずだ。

現に自分達は特に負傷もなく拠点に陣取ることに成功している。

とはいえ…

「!」

紅が舞う。

「メテオ来ます!」

悲鳴のようにニーナが叫ぶと、前衛をしているヒイラギとレイヴが飛び退くように離れる。

今回のターゲットになったのはヒイラギのようだ。

落ちてくる火球をモロに受けて膝をつく。

すぐさまライヴが戻り、後方支援のニーナと共にサポートに入り、クルルが回復を行う。

この連携も何度目だろうか。

バランスのいいPTであることと、相手の攻撃が致命傷に足り得ないことで、なんとか持ちこたえている。

「二発目来るぞ!」

「まだクールタイム!あと5秒!」

レイヴの叫びに、クルルが焦ったように返す。

「くっ」

メテオのモーションに入った敵をニーナは連続で射る。

1、2、3っ!

三発目でようやく相手が態勢を崩し、倒れる。

「ナイス」

ロートーンながらどこか興奮を孕んだレイヴがその敵に向かってメテオを放つ。

火球は敵のもう一人を巻き込んで落ちる。

最初にニーナが射った敵はこれで倒しただろう。

もう一人を狙って回復を終えたヒイラギが飛び込む。

ヒット、しかし浅い。

「メテオ来ます!」

仕留め切れないうちに敵の反撃により、また振り出しへ戻る。

敵を倒したが、後方に引き摺られて行った、すぐに手当てを受けて戦線に復帰するだろう。

かれこれ20分戦って8人からそれ以上敵を減らせない理由がこれだ。

敵の数で、押し切られている。

どこかが崩れたらあっという間に瓦解しそうなフォーメーション。

その思いの通り、瓦解はいよいよ来た。

「メテオ来ます!」

ニーナが叫ぶ。

再びサポートし合っていた前衛二人は飛び退くように離れようとして…

その時、運悪く放たれた敵の攻撃がヒイラギを捉えた。

「うっ」

ヒイラギのうめき声が聞こえた…ような気がした時には、彼女は火球にとらわれた。

「ヒイラギさん!」

今のタイミングはマズイ。

ニーナが慌てて駆け寄る。
力なく倒れたヒイラギにトドメを刺そうとした敵は、ギョッとしたようにニーナに振り返る。


「ニナちゃん!?」

「来ちゃダメだ!」

クルルとレイヴの叫びにハッとするニーナ。

いけない、前に出過ぎた。

気づいた時には、敵の弓に足を取られ、態勢を崩したまま膝をついてしまう。

二度、襲って来る敵の剣。

「させませんっ」

なりふり構わず、地面を転がり至近距離で弓を放つ。

しかし、あまりにも無茶な態勢で撃ったせいか、精度も威力も足りていない。

ヒイラギはまだ無事だ。
意識を失っているのが、敵は脅威無しと見なしたのだろう。
攻撃の意識は、ニーナに向き…。

ろくなダメージも与えられず、敵の追撃は苛烈に続…こうとした。

「ニーナちゃん!」

口元を抑えたクルルの悲鳴。

真っ暗になる視界と、体に当たる硬い感触。

ガツン、と、硬く響く音がした。

「痛…」

歯をくいしばるレイヴ。

ニーナが顔を上げれば、自分を庇う体でレイヴが敵の剣を背で受け止めていた。

受け止め…ているのだろうか、剣が間に合わなかったのだろう。

打ち込まれた剣は鎧を切り裂き、肩口に深く突き刺さっている。

「レイヴさん!?」

ニーナが慌てて敵の剣を矢で打ち払い、レイヴを半分引きずるように撤退を始める。

「回復するわ!」

クルルが後方からその撤退の支援をしながら叫ぶ。

メーデーメーデーメーデー

状況は最悪。

泣きたい気持ちを必死に堪え、ニーナは歯をくいしばる。

「…あれ?」

どこか場違いな、呑気な声。

「もしかして、結構ヤバかった?」

振り返れば。

あぁ、どれほど待ち望んだろうか。

後方支援のクルルのさらに後ろ。

金色の鎧を身に纏う、Ojikaの騎士団長、ヨシノがリスポーンポイントについに到着した。

「はは、なんとか間に合ったみたいで良かった。

…じゃあ、たまにはいいとこ見せようか」

抜かれる双剣

反撃が始まる。