メアリのアイドル活動記

セリンディアのアイドル、メアリのつれづれな日々。

小説1 クソゲーへようこそ!

「ようこそ。クソゲーへ」

目の前に現れた優男がそう言う。

「…クソゲー?」

頭の処理が追いつかない。

言われた言葉をそのまま反芻する少女に、優男はそのまま話し続ける。

「君達の認識はよく分かった。

いや、僕らも申し訳ないとは思っているんだ。

君達にも多大な迷惑をかけたからね。

しかし…、しかしだ。

何事も突き詰めれば傑作に変わるものじゃないか。

ベクトルが違うだけで、クソゲーにも名作はある。

我々は良作を作るのを辞めた。いや、なに。方向を変えたというだけだよ。

君達を楽しませることを諦めたわけではない。

新しいゲームの始まりだ。

クリアする方法は単純明解。私達を倒すことだ。

はは、いいね、魔王の気分だ」

どこか虚ろさを感じさせる狂気じみた薄笑いを浮かべる優男を前に、少女…ニーナの明確になっていく思考回路が揺すり起こされるようにゆっくりと浮上してくる疑問に応えようと動き始める。

この男は誰なのか

何を言っているのか

ここはどこか

残念ながら、1つとして答えは出なかったが。

ひとまず状況を把握しようと、目線を動かそうとして…失敗した。

体が動かない。目も口も動くような気がしない。

いや。体が存在しないような感覚。

夢でも見ている気分とはこのことだろうか?

それか映画でも見ているような。

途端に、ニーナに恐怖心が巻き起こる。

パニックだ。自分はどうなってしまったのだろうか?

意識のみの状態で、確かにニーナはそこにいた。

「あぁ、怖がっているのかな?

困ったな…この作品はホラー作品じゃないんだが…。

安心するといい。これはチュートリアルだ。

終われば、心強い仲間達と再会できる。仮初めの体、仮初めの記憶だが、君は彼らと共にゲームに挑むんだよ」

「ゲーム、ですか?」

思ったことが、ニーナの声となった。

なるほど、こうすれば喋れるのか。

「うん?ああ、そうだよ。
クリア目指して頑張って欲しい。
私達も全力を持って楽しませられるようにさせてもらうさ。
この世界で」

クルリと首を巡らせると、男は醜悪に歪んだ笑みを浮かべた。

「足掻いて、その生き様を見せて欲しい」

「生き様?」

「そう。私達はそれを見るために死力を尽くす。
エンターテイナーだからね」

「勝手に…押し付けがましい…」

忌々しそうにニーナは声を絞り出した。
そんなニーナを見て、男は楽しげに笑う。

「そう言わないで。
僕達も命を賭けて君達を楽しませることを誓おう。」

両手を広げ、軽薄に命を賭けると。
ニーナはそれを力の限り睨む。

「さぁ、そろそろ時間だ。
最初は少し混乱するかもしれないが、楽しんで」

「待って…」

「さぁ、ようこそクソゲーへ。
楽しんでくれたまえ」

意識が落ちていく。

眠りに落ちていくような感覚。

それと同時に頭に流れ込んでくる、自分ではない記憶が、今は意識のみのはずのニーナの頭に激痛を走らせる。

悲鳴をあげるニーナ。

意識が沈んでは激痛に覚醒する、その繰り返しに気が狂いそうになる。

しかしそれも数秒のこと。

意識が沈む速度が急速にあがり、それに伴い痛みも遠のいていく。

いし、き、が、遠、のいて、いく。